蕎麦切　宮下　三田綱町

【ハモ天ぷら】
季節ものを天ぷらで食べる。
東を向いて笑いながら食べるのは初物。
長生きの秘訣だっけと思いながら食べるのは楽しい。
一人で食べ物屋でやっているのは恥ずかしい。
見ている方も「あのひと変」とか思うに違いない。
訳が分かっていれば微笑ましい。
へー、初物なんだとがてんがいく。
お店でそれをやっている人を見た事がない。
恵方巻き位だろうか
その年の方位が決まっていて、
店員に今年の方角はあっちですよとか言われながら
無言で食べる。
そんな時必ず話しかける奴がいる。
笑わせるやつもいる。
不幸にさせようと話しかけている訳ではないが
無言で食べきるという行為が変に面白いから
ちょっかいを出したくなる。
東を向いて笑いながら食べるのは
やはり家庭の団欒か
海の幸、山の幸
今年も我が家の食卓に乗りありがとう
家内安全、家庭円満
の笑いがそこにある。
亭主は左手を腰に当て
東を向き、少し上方を見ながら、よしよしと思いながら食べる。
家長としての威厳がそこにある。
鱧の旬は夏
東京で鱧を食べられるようになったのは何時の頃からか
嫁は鱧の骨切りはしない
普通できない
天ぷらも揚げない
キッチンが汚れるからとしない
鱧では家長としての威厳的行為を家では出来ないから
外でしようと出かける
ハモ天セイロで東を向いて腰に手を当てハハハと
威厳は保たれただろうか

「ドラゴンフルーツ蕾の天ぷら」

ドラゴンフルーツの蕾？？
なんでぃ
そのけばいなめいのそれは
いってい
なににするんでぃ
天ぷら～
天ぷらってのは
江戸前の魚を薄衣でさっと揚げたのがうめんだ
訳のわかんねー
南蛮言葉のながたらしい言葉なんぞ並べやがって
こちとら気がみじけんだ
石川の五右衛門様とはおれ様のっこた～

ドラゴンフ！
い　いててててて
ほら
舌かんじゃったじゃねーかよ

なんでぃ
その　ドラ天てーのはうめーのか

ちじめてきたね
ドラ天とはいいや

ドラ天かい
天ぷらだからねー
外はサクサク
口の中でとろける衣
中はもっちりと
かすかに苦みを感じて
大人の味って感じ

？？？？？

感じ　感じって
いいやがって
こちとら能書きを聞きに来たんじゃねーってんだ

そのドラ天とやら
食ってやろじゃねーか

あいよ
ドラ天いっちょ～

おう
酒は栃木の「惣誉」ぬる燗でたのま～

まてよ
俺様がドラ天を食べると
ドラ右衛門（どらえもん）？？

「水茄子」

時期に成るまで忘れているが
その季節になると思いだす
無性に食べたくなる物がある
水茄子の刺身もそのひとつ
忘れたままで時期が過ぎると
後悔をする
もう二度と会えないのではないか
二度と口にすることが出来ないのではないか
あ～
水茄子様
となる
辛し醤油で食べたい
溶き辛子がいい
山葵でもなく、七味唐辛子でもなく、溶き辛子がいい。
ビールがいい
水茄子を辛子醤油の抜ける辛さと戦って食べるのは
ビールが無ければ戦えない
潤いの一時
夏の一時
水茄子とビールの一時

蕎麦切　宮下　三田綱町

【そば刺し】

酒の肴に刺身はいい。
ちょっと生モノがあると落ち着く。
蕎麦屋には生魚は無い。
あるところもあるがない
別に刺身を置いてはいけない決まりがある訳ではないがない。
生魚ではないが「そば刺し」がある。
こんにゃくの刺身がある位だから。
そば刺しがあってもいい。
そば刺しはそば切りの前の熨した状態で。
短冊や色紙に包丁し、茹でて
山葵醤油で食べる。
流行の塩麹とわさびで食べても旨い。
ツルット　モチットしている。

蕎麦切　宮下　三田綱町

「合い焼き」
蕎麦屋の肴で唯一こってりの鴨焼き
脂が旨い
てかてかと表面を覆う脂　
焼きあがった鴨は
香りと共に運ばれてくる
葱の香りも添えて
焼きあがったばかりの鴨は
いかにも「旨いよ」の主張をしている
にじみ出た鴨の脂と肉汁が表面を覆っている
ゆっくりと流れている
共に焼かれた葱も覆っている
まずは鴨から食べる
葱を背負わせて一緒に食べるのもいいが
まずは鴨を楽しむ
熱いのは分かっているが
一口に食べる
前歯で硬さや熱さを調べるのもいいが
舌に乗せ口の奥に運び奥歯で噛みしめる
程良い肉の反発があり
鴨肉の硬すぎもなく軟らか過ぎもしない食感があごに伝わってくる
口の中の片側だけが幸せの味に喜びを感じる
反対側にも鴨を送って噛む
口いっぱいに幸せな味が広がる
そば前の純米辛口「浦霞」を呑む
口の中の鴨の脂が洗い流されながらも
幸せな鴨の味は残っているかも